企業ブランディング(コーポレートブランディング)とは、自社ならではの付加価値を定義し、企業あるいはグループの価値を高める戦略のことです。「競合に打ち勝つ強みが欲しい」「優秀な人材を確保したい」といったお悩みや課題がある場合は、きちんと目的意識を持ってブランディングを実施することで解決できる可能性を高められます。
今回の記事では、大企業から中小企業まで実施してほしいブランディングについて解説します。効果的なブランディングで、厳しい市場でも生き残り、いずれは100年企業を目指し、中長期的な経営戦略を立てていきましょう。
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企業におけるブランディングとは
コーポレートブランディングとは、「自社ブランドの付加価値を明示し、独自性の高いポジショニングやユニークな強みを認知させることで、競合他社と差別化を図る戦略」のことです。ほかにも、「企業が共有したい理念を発信することで共感を得ること」「顧客にとって価値のある商品を提供するための活動」などと定義されています。
このように、ブランディングには明確な定義がなく、企業によってさまざまな捉えられ方をしている点が特徴的です。しかし、どの企業も“自社らしさ”を発信することを根幹においていることは変わりありません。
たとえば、「掃除機といえば〇〇」「〇〇の家電はどれも高性能」と、顧客がブランドの魅力や信頼性を理解できている状態は、ブランディングが成功しているといえるでしょう。
なおこの言葉は、烙印を押すという意味の「brand」が語源です。かつて仔牛に焼きゴテで牧場名の印をつけ、ほかの家畜と区別していたことに由来しています。
マーケティングやプロモーションとの違い
「ブランディング」「マーケティング」「プロモーション」といった言葉の意味や使い分けに自信が持てない方もいることでしょう。混同しやすいこの3つの言葉には、以下のような違いがあります。
・マーケティングとの違い
マーケティングとは、商品やサービスの価値・魅力を市場にアピールし、商品が自ずと売れる仕組みを構築することです。たとえば、市場を調査して商品開発に活かしたり宣伝の戦略を考えたりすることが、マーケティングに含まれます。
他方でブランディングは、自社らしさでブランドの価値を高めるための取り組みです。マーケティングとブランディングは意味合いこそ異なりますが相関関係があり、ブランディングによってマーケティング効果を高めたり費用対効果を改善したりすることができます。
・プロモーションとの違い
プロモーションとは、企業が提供する商品やサービスを認知・購入してもらうための活動を指します。プロモーションはマーケティング手段のひとつで、街頭広告や店頭での販売促進活動などといった取り組みを指します。
一方で、ブランディングは商品やサービスの宣伝活動や販売促進が起点ではなく、自社ならではのイメージや価値を共有し、会社自体を起点として独自性を確立する活動の総称です。達成する目的が異なるため、しっかりと識別しておきましょう。
自社の売上達成を目指す手段が、マーケティングやプロモーションに対し、ブランディングは自社とステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションを円滑にするための手段といっても過言ではありません。
中小企業にブランディングが必要な理由
ブランディングと聞くと、なかには「大手企業に必要なもので中小企業は関係ない」と思われる方もいるでしょう。しかし、実は中小企業にこそ、ブランディングが必要だということを理解しておかなければいけません。
市場に多くの商品やサービスがあふれる今、インターネットの爆発的な普及もあり、人々は自ら情報を調べ、無数の商材から自分に合ったものを選びやすくなりました。インターネット以前は、TVCMや新聞広告、雑誌広告、電車広告が有効であり、消費者は常に企業からの発信で商品やサービスの情報を受け取る立場にありました。
しかしながら、インターネット普及後は企業の商品やサービスの情報を自ら取りに行くようになり、Google検索やSNSのハッシュタグ検索やインフルエンサーの投稿から購買する時代に移り変わってきています。つまり、企業と消費者の購買におけるコミュニケーションの在り方が変化したのです。
このような時流のなかで中小企業が生き残るためには、消費者に選んでもらうための独自性や強みを確立して競合との差別化を図る必要があります。
ブランディングに成功すれば、競合他社が多い市場や大手がシェアを占めている市場でも、根強いファンを獲得しやすくなります。そのため中小企業、とりわけ競合が多い業種業態ではブランディングによってインパクトを出して印象に残すことが大切なのです。
ブランディングの効果やメリット
企業がブランディングに成功すれば、売上アップや信頼度のアップなど、多くのメリットを享受できます。その効果やメリットについて具体的にみてみましょう。
1.未進出の分野を開拓しやすい
ブランディングに成功することは、企業の社会的価値の向上につながります。高い社会的価値が確立できれば、今まで勝負してきた市場のみならず、未進出の分野を開拓しても成功できる可能性が高まります。
たとえばDyson(ダイソン)はもともと掃除機でブランディングに成功した会社ですが、現在はヘアドライヤーや空気清浄機といった別の電化製品でものヒット商品を多く生み出していますよね。これはDysonの社会的価値が高く、消費者が「Dysonの商品なら高性能だろう」とブランドの価値を認めて期待して受け入れる姿勢が整っていることも要因となっています。
日本においてメイン事業とはまったく異なる事業で成功した例としては、FUJIFILM(富士フイルム)が自社のナノテクノロジーを活かして化粧品を開発して販売し、新たなファンを獲得したケースもこれまで築き上げたブランド力があってこそのものだったといえるでしょう。
このように、ブランディングは新たなビジネスチャンスを獲得するための足がかりになってくれます。これから事業展開することを検討している企業こそ、ブランディングが大切なのです。
2.マーケティング効果が高まる
ブランディングには、マーケティングの効果を高められるというメリットもあります。適切なブランディング活動によってブランドを確立した企業は消費者からの好感度・信頼度が非常に高く、選んでもらいやすい状態になっています。そのため多額の広告宣伝費を投じなくとも、自ずと商品が売れるようになるのです。
またブランディングで認知がとれていてユーザーからの信頼性や安心感を醸成できていれば、価格が高くても売れやすくなります。たとえば、Apple社のiPhoneはスマートフォンのなかでも高価格帯の商品ですが、多くの消費者に支持されていますよね。
このように、ブランディングはマーケティングにもプラスの影響をもたらし、低価格競争に巻き込まれることを防いでくれる効果を期待できます。
3.既存社員のモチベーション・定着率アップ
独自の強みや魅力を持った企業は、そこで働く従業員にとっても魅力的です。ブランディングによって既存社員が会社自体や商品・サービスに自信と誇りを持てるようになれば、モチベーションがアップして定着率改善にもつながるでしょう。
また、自社の存在意義をしっかりと自覚することで、帰属意識を高める効果も期待できます。近年はリモートワークの普及で帰属意識が低下しやすい状況が続いていますが、ブランディングによって各人が組織の一員である意識を養えていれば、たとえ遠隔でもオンラインMTGを駆使するなどの工夫で柔軟に難題に向かって一丸となって対処できるようになります。
4.採用活動の促進
ブランディングによって自社の魅力や価値を広く認知させることができれば、優秀な人材の確保にもつながります。より多くの求職者に自社の存在を知ってもらえれば、求人応募数が増えますし、豊富な選択肢の中から自社とのマッチ度が高い人材を採用しやすくなるためです。
企業に魅力を感じて入社してくれる従業員はパフォーマンスが高くなりやすいため、さらなる独自性の醸成や業務効率化の効果を得られるでしょう。ブランディングを活かした採用活動は、企業にプラスの循環をもたらしてくれるのです。
5.組織文化が統一される
ブランディングが成功している企業の多くは、市場や顧客のみならず、社内の従業員にも理念や価値観が浸透しています。どこを切っても断面図が同じになる金太郎飴のように、経営層から従業員まですべての関係者が近しい認識や価値観、信条を持って日々活動している状態になるのです。
組織の人間が同じ方向を向いて経営や業務にあたることで、より高い成果を得られます。ステークホルダーへの発信トーンが統一される点も、大きなメリットでしょう。
6.資金調達しやすくなる
ブランディングでは、社会に向けて自社の存在価値や魅力をアピールします。ブランドが確立されている企業は投資家からポジティブな印象を持たれやすく、資金調達で有利に働く点がメリットといえます。
たとえば、A社が「子どもの支援を行っている企業」というブランディングに成功している場合、投資家に事業の意義を評価してもらいやすくなります。ほかに同じような条件のB社が存在していたとしても、将来性や社会貢献性の観点から、A社のほうが資金調達で有利になる可能性が高いのです。
企業のブランディングの流れ
ブランディングを行う主な流れは、以下のとおりです。
ステップ1.現状把握
第一に、現状を把握する必要があります。市場と自社の両方を把握することで、社会に求められていることや提供できる価値、市場のニーズを明らかにしましょう。
現状把握のためには、決められた項目について分析を進めるフレームワークが有効です。以下のフレームワークに取り組むと、現状を正確に把握できるでしょう。
【環境分析】
- PEST分析:Politics(政治的要因)、Economy(経済的要因)、Society(社会的要因)、Technology(技術的要因)
- 5フォース分析:競合他社、買い手の交渉力、売り手の交渉力、新規参入の脅威、代替品の脅威
【自社分析】
- 3C分析:Company(自社)、Competitor(競合他社)、Customer(顧客)
- SWOT分析:Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)
上記のようなフレームワークで環境と自社を分析できたら、市場における自社の立ち位置をマッピングする「ポジショニングマップ」を作成してみることをおすすめします。競合との違いや独自性を明確にでき、訴求すべき価値を発見するヒントになるでしょう。
ステップ2.ブランド定義
次に、ブランド定義(コンセプト)を決めます。「どのようなターゲット」に「どのような価値を提供し」、「どうなって欲しいのか」を明確に決定しましょう。その後、ブランドが目指している理想像をわかりやすく伝えられるように、いくつかのキーワードに“言語化”します。
ブランド定義を進める際は、以下の観点から自社に合ったものがないかを探してみるといいでしょう。
- 実利価値:品質や性能、使用感などがユーザーに与える価値
- 感性価値:デザインやブランドのイメージが与える価値
- 情緒価値:商品を通して得られる体験が与える価値
- 共鳴価値:商品を活用した自己表現・社会実現が与える価値
いくつか案を挙げ、最終的にもっともブランドの特徴が伝わる魅力的な文言を使い、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定します。この際、企業が掲げるミッションや目指す将来像などをふまえ、ステークホルダーだけではなく、自社の従業員からも愛着を抱いてもらえる内容にすることが重要です。
ステップ3.戦略の立案
ブランドの定義が決定したら、それを社会に浸透させるための戦略を立案しましょう。最適な戦略は企業によって異なりますが、ブランドロゴ・キャッチコピーの作成や広告の活用、WebサイトやSNSの活用などが一例として挙げられます。
ステップ4.運用
ここからは、立案した戦略を実際に運用していくフェーズになります。気をつけたいのは、運用に一貫性を持たせることです。自社らしさをアピールするブランディングでは、運用にも“らしさ”が求められます。
たとえば、「高級ブランドなのにロゴが安っぽい」「発信内容のトンマナがコロコロと変わる」といった運用法では、効果は得られません。ブランド定義をふまえ、首尾一貫した運用に努める必要があります。
ステップ5.検証
ブランディングの方向性や運用方法が合っているかどうかを確かめるためにも、運用を開始したあとは定期的に効果を検証しましょう。
代表的な検証方法としては、アンケートの実施が挙げられます。消費者の声を聞いてあまり成果が出ていないことが判明した場合は、ブランド定義や運用方法を見直す(リブランディングといいます)タイミングです。
ブランディングの目的と種類
一般的にブランディングというと、社外に自社イメージを伝達させる「アウターブランディング」のイメージが強いかもしれませんが、実は社内に自社らしさを浸透させる「インナーブランディング」も大切です。ほかにも、ブランディングは目的によってさまざまな種類に分類できます。
そこで、ここからはブランディングの目的と種類についてくわしく説明します。
アウターブランディングとは
消費者や自社の顧客、取引先企業、社会など、社外の人に向けて行う戦略のことです。自社の魅力を伝えられるため、企業の利益やイメージを向上させるために実施されます。一般的に、多くの方がブランディングと聞いたときに思い浮かべるのはこの対外的なアウターブランディングです。
インナーブランディングとは
企業のブランドコンセプトを社内に浸透させ、従業員満足度や愛着度(エンゲージメント)を高める戦略のことです。従業員の定着率や業務効率の改善などを目的に実施されます。
採用ブランディングとは
自社をブランド化することで、優秀な人材を採用する力を高める戦略のことです。自社の理念に共感してくれる人材を確保するために実施されます。採用ブランディングは、厳密にいうとインナーブランディングに分類されます。
商品ブランディングとは
商品のコンセプトやタグライン、ロゴデザインなどを通して商品自体の価値を高める戦略のことです。消費者に訴求することを目的に実施されます。
少し似ていますが、宣伝広告や販促活動を行う「プロモーション」とは異なるため、混同しないように注意しましょう。
ブランディングとリブランディングの違い
リブランディングとは、英語で書くとブランディングに「Re(再び)」がついた言葉です。再ブランディングと言い換えられますが、両者は同じ意味合いで使われることが多い傾向にあります。
“再び”という言葉がついている通り、今ある経営資産やブランド資産を活かしながら、2回目以降のブランディング戦略を実施することを「リブランディング」といいます。たとえば、設立年数が長い企業、あるいは過去に一度ブランディング活動を行ったことがある会社などで使われると考えておきましょう。
まとめ
ブランディングとは、他社にはない付加価値で競合との差別化を図る戦略全般のことを指します。商品や情報があふれる現代、大企業だけではなく中小企業にもブランディング戦略は欠かせません。
“自社らしさ”を浸透させられれば、売上アップだけではなく、定着率改善や採用戦略、従業員の満足度向上といった効果が得られます。メリットが非常に多いコーポレートブランディングを、ぜひ実施してみてはいかがでしょうか。