2018年に出版された中尾隆一郎氏による『最高の結果を出すKPIマネジメント』(フォレスト出版)は、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2019 マネジメント部門」にノミネートされ、累計5万部突破をするベストセラーとなりました。
会社の事業を成功させるため、多くの企業がデジタルマーケティングに取り組むうえでKPIを設定しています。しかし、KPIを設定して施策を実行すれば必ず成果に結びつくわけではなく、不適切なKPIはデジタルマーケティングの費用対効果を左右する重要な指標です。
たとえば、優秀なWeb広告担当者が退職し、引継ぎがままならないまま経験と知識が浅い後任スタッフが間違ったKPIを設定してしまえば、業績の低下を招いてしまうケースも起こり得ます。
今回の記事では、デジタルマーケティングのなかでもWeb広告に焦点を当てマストで見ておきたいKPIを紹介します。設定してはいけない、よくある間違ったKPIについても解説しているので、正しいKPIを設定し、マーケティング目標を達成するためのご参考になさってください。
コンテンツ
KPIとは
KPI(Key Performance Indicator)とは、企業が目的達成までの過程を観測するために設定する重要な指標のことです。「重要業績評価指標」とも呼ばれます。
KPIは通常数値で表され、営業活動や生産性、消費者行動など、ビジネスにおけるあらゆる分野に設定されます。
KPIをデジタルマーケティングに活かすメリット
デジタルマーケティングにおけるKPIは、投資収益率 (ROI)やコンバージョン率、顧客生涯価値などに基づいて設定でき、Web広告の効果測定に役立ちます。
また、KPIを使用してリスティング広告などの各キャンペーンを比較分析することで、どの指標が最終的な目標達成にもっとも役立つかをより明確に理解でき、不要な指標の除外もできます。ひいては、Web広告のABテストにおいても役立ち、無駄なコストの削減にもつながるでしょう。
デジタルマーケティングで欠かせないKPI4つ
ここでは、デジタルマーケティングにおいて欠かせないKPI4つを紹介します。
- オーガニック検索からのアクセス数
- ウェブサイトやLPのコンバージョン率
- クリック単価(CPC)
- 投資収益率(ROI)
1.オーガニック検索からのアクセス数
オーガニック検索(GoogleやYahoo!などの検索エンジンによる自然検索)からのアクセス数が多いほど、コンテンツに十分な価値と関連性、エンゲージメントがあり、高いパフォーマンスを発揮していると評価できます。
なお、オーガニック検索はキーワードの内訳とその割合の把握が大切です。
以下の指標は、オーガニック検索からのアクセスがどのようにして発生したのかを分析する助けとなります。
- オーガニック検索により得た潜在顧客数
- オーガニック検索により得た見込み顧客数
- ブランドキーワードからのアクセス数の割合
- 非ブランドキーワードからのアクセス数の割合
こちらの4つの要素を分析することで、より有用性の高いマーケティングの実施ができるようになります。
GoogleやYahoo!からのオーガニック検索で多いキーワードは、会社名(屋号)や商品名・サービス名などのブランドキーワードが大きい割合を占めやすく、既に認知度が高いような創業歴が長い老舗の企業やTVCMなどでプロモーション費用をかけている大手企業は特にその傾向が顕著にあらわれます。
リスティング広告などで設定するキーワードについても、オーガニック検索で流入を獲得できていることが多いブランドキーワードを広告でも重ねて獲得することもできますが、認知度が高くない会社名や商品・サービスを獲得したい場合には、ブランドキーワードの設定よりも非ブランドキーワードの設定が肝になります。
つまり、Web広告の運用においては、実際に検索されたキーワード(検索クエリ)だけを見るのではなく、オーガニック検索で流入をとれているキーワードを見てバランスをとるうえでも、オーガニック検索のアクセス数はKPIとしてマストで見ていく指標といえるでしょう。
2.ウェブサイトやLPのコンバージョン率
Webプロモーションの一環として専用のLPを制作したケースでも、見込み顧客をウェブサイトの特定のページに誘導しているケースでも、それぞれのコンバージョン率は広告の効果測定に不可欠な要素です。
コンバージョン率を把握したうえで、以下の指標も他のサイトやページと比較すると、広告の潜在的な弱点を特定したり、強みを活用したりできます。
- 直帰率
- 平均セッション時間
- コンバージョンにつながったセッションの割合
これらの指標は、ユーザーにとってコンテンツがいかに魅力的で、わかりやすく、価値のあるものなのかを理解するのにも役立ちます。
3.クリック単価(CPC)
クリック単価とは、1クリックあたりにかかる広告の平均費用のことです。
クリック単価は、キャンペーンを可能な限り効果的、かつ費用対効果の高いものにするための価格設定モデルとなります。また、ディスプレイ広告(バナー広告)やリターゲティング(リマーケティング)広告などにかかる平均支出の可視化もできます。
より効率的で経済的なキャンペーン活動につなげるには、以下の指標も考慮するとよいでしょう。
- 顧客獲得単価 (CPA)
- 顧客生涯生産価値(CLTV)
4.投資収益率(ROI)
投資収益率とは、投資した費用に対して得られた利益の割合のことです。
投資収益率を掘り下げることで、広告への投資が具体的な結果にきちんとつながっているかどうかがわかります。投資収益率が高ければ高いほど、キャンペーンの費用が効果的であることを意味します。 投資収益率が低いことが判明した場合は、投資する広告の見直しが必要です。
KPIに設定すべきでない指標
一方で、、掲げてしまうと的確なマーケティング戦略の妨げとなってしまう指標もあります。以下の指標は、目標達成に向けた手助けにならず、KPIに適しません。
- アクセス数の急増
- SNSのフォロワー数とインプレッション数
- 新規潜在顧客数
- メルマガ登録者数
- シェア・オブ・ボイス(SOV)
1.アクセス数の急増
アクセス数が増える=正しいマーケティング戦略をとっている、とは限りません。特に突然アクセス数が急増したときは、深く分析する必要がない場合がほとんどです。
マーケティングチームがしたことか、他のチームがしたことか。インフルエンサーによるシェアがあったのか、更新した数年前のコンテンツの一部だったのか。たくさんの仮説をあげられますが、重要なのはアクセス数ではなく、コンバージョン数です。
アクセス数の分析に気を取られ、コンバージョン数を軽視しないようにしましょう。
2. SNSのフォロワー数とインプレッション数
SNSのフォロワー数が多いことは、企業が価値のある有益なコンテンツを投稿できていることを示唆しているでしょう。しかし、ユーザーがフォローしたのは必ずしも自社商品に興味があるからではなく、全員が新規顧客につながるわけではありません。
また、インプレッション数はさらに重要度の低い指標です。大勢にコンテンツを見てもらうことは良いことですが、そのうち何割が顧客になるでしょうか。
フォロワー数とインプレッション数の代わりに、シェア数とSNSからのコンバージョン数を測定しましょう。シェア数の多さは、コンテンツの信頼性と価値の高さがユーザーに認められていることを表しています。
3.新規潜在顧客数
マーケティングでは、潜在顧客ではなく、新規顧客の獲得に注力する必要があります。売上につながる可能性の低い潜在顧客をマーケティングファネルに詰め込むと、営業活動の妨げになる可能性があります。
重要なのは見込み顧客から新規顧客へのコンバージョンです。製品やサービスを実際に必要としている見込み顧客を引き寄せるためのマーケティング戦略を考えましょう。
4. メルマガ登録者数
メルマガ登録者の増加は、会社の成長度合いを示すものではありません。いくら登録者数が増えても、収益につながるとは限らないからです。
メルマガで直接商品を売り込むことは困難です。メルマガの目的は、ユーザーの興味関心に沿いながら、将来的な売上につながるよう自社商品の情報を提供することです。
エンゲージメントを促進し、メルマガ登録者を新規顧客へとコンバージョンさせるため、メルマガ内やリンク先のLP内にCTAを設置しましょう。
5. シェア・オブ・ボイス(SOV)
シェア・オブ・ボイス(SOV)とは、競合他社と比較して、自社が市場をどれくらい握っているかを表す指標です。ブランド認知度や信頼性、ユーザーの好みを理解するために使用されます。
シェア・オブ・ボイスを正確に追跡するには、高度なツールを使用する必要があります。これらのツールは多くの場合高価であるにもかかわらず、完璧な市場の把握はできません。
また、シェア・オブ・ボイスのデータを操作するのも簡単です。PRチームとデータ分析チーム、ツールによるシェア・オブ・ボイスが、それぞれまったく異なる数値であることもあります。
シェア・オブ・ボイスの数値は、必ずしも正確ではないことを念頭に置いておきましょう。
【広告別】KPIにすべき指標例
広告の種類によって重視すべき指標は異なります。ここでは、ブランディング広告とダイレクトレスポンス広告において重視すべき指標の例を紹介します。
1. ブランディング広告の場合
ブランディングは、どの企業も長期的に取り組まなければいけないキャンペーンです。たとえば、コカ・コーラがブランディング広告への投資をやめたらどうなるでしょうか。いずれペプシなどの競合他社が急成長し、市場シェアを奪ってしまうでしょう。
ブランディング広告キャンペーンを計画する場合、注目すべき指標は次のとおりです。
リーチ
リーチとは、広告を見たユーザーの総数のことです。ブランドを宣伝するには、できるだけ多くの人に広告を見てもらう必要があります。
インプレッション
インプレッションとは広告が表示された回数のことです。インプレッション数が多いほど、リーチも多くなります。
CPM単価
CPMとは、広告を1,000回表示させるためにかかる費用のことです。ブランドの認知度を高める目的の場合、CPM課金形式が適しています。
再生回数
動画広告の場合は、もちろん再生回数が重要となります。
2.ダイレクトレスポンス広告の場合
ダイレクトレスポンス広告とは、その場で直接商品やサービスの購入をしてもらうことが目的の広告のことです。ダイレクトレスポンス広告の例には、Booking.comがあります。Booking.comの広告目的は、ブランドイメージの向上ではなく、実際にユーザーにお得な提案をし、旅行やホテルの申し込みをしてもらうことにあります。
ダイレクトレスポンス広告において、キャンペーンを最適化するために考慮すべき指標は次のとおりです。
クリック数
まずはユーザーをサイトに誘導する必要があります。ブランディング広告の場合はインプレッションが大切ですが、ダイレクトレスポンス広告の場合はインプレッションをクリックに変える必要があります。
クリック率 (CTR)
クリック率とは、インプレッションに対するクリック数の割合です。クリック率を向上させるには、適切なターゲット設定が必要です。
売上
ダイレクトレスポンス広告では、ユーザーがサイトのクリック後に購入に進むことが最重要です。
コンバージョン率
ダイレクトレスポンス広告のコンバージョン率は、サイトをクリックしてから実際に購入したユーザーの割合を表します。関連性が低いユーザーへの広告表示を減らすことで、高いコンバージョン率の獲得が可能です。
まとめ
デジタルマーケティングにおいて、KPIの設定は広告の効果測定に役立ちます。今回紹介した4つのKPIやKPIにすべき指標例を参考に、最終目標達成に向けて適切なKPIを設定してみてください。
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この記事は、Digital Marketing Instituteに掲載された「4 Essential Digital Marketing KPIs to Track For Your Next Campaign」を翻訳し、一部リライトした内容です。
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